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大阪高等裁判所 平成12年(行ス)1号 決定 2000年7月19日

抗告人

右代理人弁護士

関戸一考

相手方

右代表者法務大臣

保岡興治

右指定代理人

佐野年英

原田一信

新名徹

宮田恭裕

主文

一  別紙目録一記載の文書中、平成二年一〇月二九日から同年一一月六日までの間の旅行命令簿及び同目録二記載の文書についての当審での提出命令の申立てをいずれも却下する。

二  その余の抗告を棄却する。

三  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨

一  原決定を取り消す。

二  相手方(大阪国税局)は、別紙目録一、二記載の文書を提出せよ。

第二抗告の理由

一  抗告人は、原審において、相手方に対し、大阪国税局職員の乙らが平成二年一一月七日、八日、九日にどこに出張したかが判明し得る文書の特定を求めたところ、相手方は、それは事務日程表であるが、それは各職員が所持している私的メモであると答えた。抗告人は、そのような私的メモの提出を求めるものではないから、再度文書の特定を求めたが、相手方が応じないまま、原決定に至り、原決定は、抗告人が提出を求める文書は各職員が所持している職員出張予定表ないし事務日程表あるいはそれに類する書面を前提として判断し、抗告人の申立てを却下した。

二  しかし、基本事件での調査嘱託の結果、抗告人が提出を求めている文書は、「国家公務員等の旅費に関する法律」(昭和二五年法律第一一四号)及びその委任を受けた大蔵省令「国家公務員等の旅費支給規定」に基づき作成される「旅行命令簿」(昭和二五年省令第四五号)であることが判明した。

また、大阪国税局では納税者毎にジセキボ(「事蹟簿」または「事績簿」。以下「事蹟簿」という。)と称されている書類を作成保存しており、同書類には税務調査に赴いた職員の氏名、日時、場所、納税者との重要な交渉の内容、結果が記載されている。

三  抗告人が提出を求める各文書は、民訴法二二〇条三号前段の利益文書であり、同号後段の法律関係文書である。また、相手方は、平成一一年八月二四日付準備書面一二頁において「調査事務予定に関するメモがあり………」と調査事務予定に関するメモを引用して相手方の主張の正当性を主張しているから、引用文書でもある。

四  文書提出の必要性

基本事件の争点は、抗告人の昭和六三年度、平成元年度の修正申告が有効か無効かであり、その判断のためには、相手方職員が右の修正申告書を持ち帰った日に、抗告人がその内容を追認ないし了解していた事実があったのかが最大の争点である。抗告人は、右修正申告書は抗告人の不知の間に相手方職員が作成したと主張しており、右修正申告書の内容は、誰が、いつ、どこで記載したのかにつき詳細な検討が必要である。しかるに、相手方側証人の供述は変遷を繰り返し、抗告人側の証人等の供述とも大きく食い違う。したがって、抗告人が修正申告書を提出した日はいつか、誰が、その日に抗告人方へ調査に来たかを判断するためにも、また相手方証人の供述の信憑性を判断するためにも、旅行命令簿、事蹟簿が必要である。

五  相手方は、旅行命令簿は保存期間の経過により廃棄されて存在しないと主張するが、基本事件では、乙自ら税務調査の年月日を訂正する等、税務調査の日時が重大な争点の一つとなっているのであるから、それを立証する文書を廃棄することはあり得ない。

第三当裁判所の判断

一  一件記録によれば、相手方(大阪国税局)では、その職員が税務調査を含め職務で出張した事実、出張職員の氏名、出張年月日、出張先(地名)等を記載した文書として旅行命令簿があり、右文書は抗告人主張の法令に基づいて作成されていることが認められ、旅行命令簿によれば、相手方(大阪国税局)の職員の誰が、いつ抗告人方に税務調査に赴いたかが明らかになるといえる。

しかし、旅行命令簿は、その記載内容、作成目的に照らして、利益文書にも法律関係文書にも該当しない。その理由は、原決定が本件予定表について判示したところと同じであるから、これ(原決定六頁一一行目から同八頁七行目まで。ただし、同七頁四行目の「本件予定表」を「旅行命令簿」と、同八頁三行目から四行目にかけての「前記のとおり、本件予定表は大阪国税局資料調査第二課の職員らの事務予定を記載したものにすぎず、たまたまその予定表に」を「旅行命令簿は、大阪国税局の個々の職員が何日に何処へ出張したかが記載されているものであるから、同命令簿に」と改める。)を引用する。

抗告人は、旅行命令簿は引用文書に当たるとも主張し、基本事件の記録によれば、相手方は平成一一年八月二四日付の第七準備書面で抗告人主張の記載をしていることが認められるが、これは丙が私的に作成しているメモをいうものであって、旅行命令簿を対象にしていないことは明らかであるから、引用文書にも当たらない。

抗告人は、原審では、平成二年一一月七日ないし九日の間の前記趣旨の文書の提出命令を申立てたが、同年一〇月二九日から同年一一月六日までの文書提出命令を申し立てていないから、この期間の旅行命令簿の提出命令の申立ては、当審での新たな申立てであって、不適法である。

したがって、右部分の申立ては却下を免れないし、その余の期間の旅行命令簿の提出を求める抗告は棄却を免れない。

二  抗告人は、平成一二年七月一〇日付意見書補正の申立書をもって事蹟簿の提出を求め、抗告人の主張によれば、同文書は納税者毎に作成されているものであって、相手方の職員が税務調査に赴いた日時、場所、納税者との重要な交渉の内容、その結果が記載されているというのである。そうすると、事蹟簿は、納税者との交渉内容、結果が記載されている点において、抗告人が原審で提出を求めていた相手方(大阪国税局資料調査第二課)職員が出張した日時と出張先を明らかにする文書以外の文書であると認められるから、当審での新たな文書提出の申立てであって、不適法である。

三  以上の次第で、平成二年一一月七日ないし九日の間の旅行命令簿の提出を求める抗告を棄却し、その余の申立てを却下することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 熊谷絢子 裁判官 坂倉充信)

目録

一 相手方(大阪国税局)の平成二年一〇月二九日から同年一一月九日までの間の旅行命令簿

二 通称ジセキボ(事績簿又は事蹟簿)と称されている文書のうち、右期間内の抗告人に関する部分

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